大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所松江支部 昭和43年(ネ)103号 判決

控訴人 鳥取漁網株式会社

被控訴人 国

訴訟代理人 武田正彦 ほか四名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の予備的請求を棄却する。

当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

控訴代表者は「原判決を取り消す。松江地方裁判所昭和三九年(リ)第一四号動産に対する強制執行の配当手続事件について、同裁判所が昭和四〇年一月七日作成した配当表中『債権者島根県厚生部保険課長元金一、一〇八、二七六円、利息損害金三、三〇〇円、その他一五〇円、合計一、一一一、七二六円、支払額一、一〇二、七九八円、債権者鳥取漁網株式会社元金二六、〇〇〇円、その他一、九八〇円、合計七二七、九八〇円、支払額〇円』とある部分を『債権者鳥取漁網株式会社の前記債権に対する支払額七七〇、六八〇円、債権者島根県厚生部保険課長の前記債権に対する支払額三三二、一一八円』と更正する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに本件控訴が認容されない場合、予備的に「被控訴人は控訴人に対し、七七〇、六八〇円を支払え。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

第二控訴代表者の主張

一、控訴人は、訴外隠岐開発漁業株式会社(以下訴外会社という)に対し、米子簡易裁判所昭和三四年(イ)第二六号事件の執行力ある和解調書正本にもとづき、七〇一、六二〇円(内訳元本七〇〇、〇〇〇円、手続費用一、六二〇円)の債権(以下本件債務名義にもとづく債権という)並びに昭和三六年四月二二日クレモナタール染漁網一五本六節三反を代金六一、五〇〇円で、同年六月二四日クレモナ漁網一五本六節三反を代金九七、五四〇円で昭和三七年九月一二日スパンナイロン漁網二四本五節五反を代金一七九、五〇〇円で、同日スパンナイロン漁網一五本六節一五反を代金三五四、〇〇〇円でそれぞれ売り渡し、以上合計六九二、五四〇円の売掛代金債権(以下本件売掛代金債権という)を有していたものであるが、昭和三九年六月八日本件債務名簿にもとづき松江地方裁判所執行吏に委任し、訴外会社所有の別紙目録(一)および(二)の動産につき、同月九日同目録(三)の動産につき各差押をなさしめ、同執行吏において同年七月三一日右各動産を一括して競売に付した結果、(一)の物件は一、〇〇五、〇〇〇円で、(二)および(三)の物件は合計一二七、四〇〇円で競落された。

ところで、被控訴人は右競売手続において、昭和三九年六月一五日訴外会社に対する健康保険料一四三、八九二円。厚生年金保険料六七、五〇〇円(以上いずれも昭和三七年九月より同三八年六月分迄並びに同年一一月、一二月分)、滞納処分費五〇円、船員保険料七九四、八六八円(昭和三八年四月より同年六月分迄並びに昭和三九年三月、四月分)につき国税徴収法八二条による交付要求をし、更に昭和三九年六月二三日訴外会社に対する船員保険料一〇三、〇一六円(同年五月分)および滞納処分費一〇〇円につき、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律二一条、国税徴収法八二条により差押および交付要求をし(以上の交付要求並びに差押および交付要求を一括して本件交付要求という)、その他の債権者からも配当要求の申立があつたので松江地方裁判所において配当手続が開かれた(同裁判所昭和三九年(リ)第一四号)。

右配当手続において、被控訴人は交付要求の額を合計一、一二〇、五七四円(内訳健康保険料一四三、八九二円、厚生年金保険料六六、五〇〇円、船員保険料九〇六、七三二円、同延滞金三、三〇〇円、滞納処分費一五〇円)に訂正し、控訴人は本件債務名義にもとづく債権として七〇〇、三三〇円(内訳元本七〇万円、費用等三三〇円)並びに本件売掛代金債権を含む商品代金債権七二六、〇〇〇円およびこれに対する昭和三七年九月一二日から配当期日迄日歩二銭八厘の割合による約定利息金の配当を求めたところ、同裁判所は昭和四〇年一月七日被控訴人に対し一、一〇二、七九八円を配当し、控訴人に対しては配当しない旨の配当表を作成した。

二、しかしながら、被控訴人の本件交付要求は次のとおり法令に違反し、無効であつて、右交付要求にもとづく配当は違法といわなければならない。すなわち、

(イ)  控訴人は前記のとおり訴外会社に対しクレモナタール染漁網等を売渡し、六九二、五四〇円の本件売掛代金債権を有しているところ、別紙記載(一)の大羽鰮網一統は、控訴人が売渡した漁網をその主要な構成部分としているので、控訴人は右大羽鰮網につき動産売買の先取特権を有している。従つて、被控訴人は本件交付要求に当つては控訴人に対し、国税徴収法八二条三項、五五条にもとづく通知をしなければならないのに、被控訴人は控訴人の先取特権を知りながら右通知をしなかつた。また控訴人が執行吏に民訴法五九一条所定の通知を求めたが、被控訴人において交付要求書副本の提出を拒んだため、その通知を受けることができなかつた。

(ロ)  被控訴人は本件交付要求にかかる保険料債権等の徴収のため、

(1)  昭和三二年八月二九日境港市栄町九二番の一所在宅地および事務所を

(2)  昭和三八年四月八日第一三おき丸および第一五おき丸を、

(3)  昭和三九年六月八日隠岐島漁業協同組合の事務所および倉庫に置いてあつた船具および漁具を、

(4)  同年七月一日島根県八束郡美保関町森山フサケ谷、家屋番号七七二番の四木造瓦葺平家建倉庫一棟一棟(建坪四〇坪)を、

それぞれ差し押え、かつ

(5)  国税通則法四六条五項の担保として、同法五〇条六号により、昭和三八年八月一六日頃訴外中川秀政、同面野正男をして昭和三八年六月分迄の健康保険料、厚生年金保険料、船員保険料につき連帯保証をなさしめた。

以上のうち、(3) の船具、漁具は八〇万円の、(4) の倉庫は四二万円の価値を有し、第三者の権利の目的となつていないものであり、また(5) の保証は国税徴収法八三条にいう滞納者の財産に含まれるものであり、更に訴外会社には右のほかにも換価が容易で第三者の権利の目的となつていない財産、すなわち漁船第五、第六開発丸、伝馬船しらしま丸、漁業権、漁具を所有し、第六開発丸を訴外片江巾着網漁業生産組合に賃貸し、一ケ月一〇万円の賃貸料債権を有していたから、被控訴人がこれらの財産を差し押え、或いは保証人に対し請求すれば、本件交付要求にかかる保険料債権は充分徴収することができた筈である。

ところで国税徴収法四八条、四九条によれば、国は国税等を徴収するために必要な財産以外の財産を差し押えることができず、かつ滞納者の財産を差し押えるに当つては、滞納処分の執行に支障がない限り、その財産について第三者が有する権利を害さないように努めなければならず、また同法八三条によれば、滞納者が他に換価の容易な財産で第三者の権利の目的となつていないものを有し、その財産によりその国税等の全額を徴収することができると認められるときは交付要求をしないものとされている。しかるに被控訴人は訴外会社の有する前記財産又は保証によつて保険料債権の徴収をはかろうとしないばかりか却つて国税徴収法七九条に違反し、不法にも前記差押および保証を解除した、しかし訴

外会社が前記の財産と保証人を有している以上、本件交付要求は国税徴収法四八条、四九条、八三条に違反し、無効である。

なお、被控訴人主張の事実のうち、(1) および(2) の不動産および船舶に設定された抵当権の被担保債権の存在、並びに(3) の漁具が(2) の船舶の属具であることはいずれも否認する。訴外会社の固定資産税、町民税のうち昭和三四年以前の分は時効により消滅しており、その後の分は納税猶予処分がなされているか又は本件保険料債権に優先しないものである。(4) の倉庫に仮差押がなされていたことは認めるが、右仮差押は本件保険料債権に優先するものではなく、しかも昭和三九年六月二六日には解除された。なお、右倉庫は昭和四〇年三月二六日訴外森山憲治に三二五、〇〇〇円で売却されたから、当時少くとも同額の価値を有していたことは明らかである。

(ハ)  控訴人は昭和三九年八月七日被控訴人に対し、訴外会社には他に換価が容易で第三者の権利の目的となつていない財産があり、これにより本件交付要求にかかる保険料債権の全額を徴収することができるのに、控訴人にとつては本件交付要求のため自己の債権の弁済を受けることができなくなることを理由として、国税徴収法八五条にもとづき交付要求の解除を請求したところ、被控訴人は同年同月二五日右請求を棄却し、更に昭和四〇年二月六日、同年九月四日にも重ねて解除請求をしたが、被控訴人は同年同月一八日これを棄却した。しかし控訴人の解除請求は済適法であり、被控訴人は本件交付要求を解除すべきものであるから、本件交付要求が有効であることを前提として作成された配当表は違法といわなければならない。

以上の次第で、松江地方裁判所が被控訴人に対し一、一〇二、七九八円を配当する旨の配当表を作成したことは違法であるので、そのうち控訴人が動産売買の先取特権を有する本件売掛代金債権六九二、五四〇円並びにこれに対する昭和三七年九月一三日から配当期日たる同三九年七月三一日まで商事法定利率年六分の割合による利息金七八、一四〇円(合計七七〇、六八〇円)につき、これを被控訴人に対する配当から削除して、控訴人に配当するよう、配当表の更正を求める。(以上主たる請求の原因)

三、仮りに本件交付要求が形式的に存続していることをもつて、行政行為の公定力により配当表の更正が認容されないとすれば、本件交付要求は、前記二の(イ)ないし(ハ)記載のとおり、国税徴収法、国税通則法に違反するものであり、しかもこれにより控訴人が有する動産売買の先取特権が害され、本件売掛代金債権および利息債権合計七七〇、六八〇円の弁済を受けることができなくなつたため、これに相当する損害を受けたことになる。よつて国家賠償法一条にもとづき右損害の賠償を求める。(以上予備的請求の原因)

第三被控訴代理人の主張

一、控訴人主張の第一項の事実のうち、控訴人が訴外会社に対し本件債務名義にもとづく債権を有することは否認し、本件売掛代金債権を有することは知らない。その余の事実は認める。

二、同第二項の事実のうち、被控訴人の本件交付要求が法令に違反するとの点は否認する。すなわち、

(イ)  被控訴人が本件交付要求に際して控訴人に国税徴収法八二条三項、五五条にもとづく通知をしなかつたことは認めるが、右通知を要する相手方は、同法五〇条一項所定の権利者に限られるのであつて、控訴人はこれに該当しないから、通知の必要はない。

(ロ)  被控訴人が控訴人主張のごとく訴外会社所有の財産を差し押え、かつ訴外中川、同面野に連帯保証をさせたこと並びに国税徴収法四八条、四九条、八三条に控訴人主張のような規定の存することは認めるが、その余の事実は否認する。

本件交付要求当時、訴外会社には別紙(一)ないし(三)の物件のほかに、換価が容易で第三者の権利の目的となつておらず、かつその財産により本件保険料債権の全額を徴収できるような財産はなかつたから、本件交付要求に控訴人主張のごとき法令違反はない。すなわち、被控訴人は本件保険料債権のほか別表記載のとおり各保険料延滞金債権を有していたので、昭和三二年八月二九日控訴人主張の(1) の不動産を、昭和三八年四月八日控訴人主張の(2) の船舶を、昭和三九年六月八日同年三月分の健康保険料九〇、三〇四円の徴収のため控訴人主張の(3) の船具および漁具を、同年七月一日同年四月分の船員保険料一二五、一三六円、厚生年金保険料延滞金一、四〇〇円、滞納処分費一五〇円の徴収のため、控訴人主張の(4) の倉庫を、それぞれ差し押え、かつ昭和三八年八月一六日同三七年一〇月分から同三八年六月分迄の船員保険料一、二二八、八六六円、同三六年八月分から同三八年六月分迄の健康保険料二四九、七九五円、および厚生年金保険料一二二、七二〇円につき国税通則法四六条五項の担保として同法五〇条六号により訴外中川秀政および同面野正男に連帯保証をさせ、同法四六条にもとづき右各保険料につき納付猶予(分割納付)の処分をした。しかし、右(1) の不動産には訴外山陰合同銀行を権利者とする債権額二、六三〇万円の抵当権が、(2) の船舶には訴外農林金融公庫を権利者とする債権額一、一〇〇万円の抵当権および訴外山陰合同銀行を権利者とする債権額二、〇七〇万円の抵当権が設定されており、(3) の動産は右(2) の船舶の属具であつて抵当権の効力が及ぶものであることが判明し、(4) の倉庫には被控訴人の差押以前の昭和三八年一二月二四日付で訴外まるか船用品株式会社のために仮差押がなされ、かつ本件保険料債権に優先する固定資産税、町民税、六一五、〇五〇円があるので、以上の各財産を公売に付しても本件保険料債権全額の徴収をはかることは不可能であつたから、被控訴人は本件交付要求により徴収することをはかり、昭和四〇年三月一三日右(1) ないし(4) の財産に対する差押および(5) の連帯保証を解除したのである。その他控訴人主張の第五開発丸および第六開発丸は、訴外会社と訴外山陰合同銀行との間の譲渡担保契約により同銀行に譲渡されていたものであり、訴外片江巾着網漁業生産組合に対する賃貸料については、当時同組合自体経営困難に陥り、銀行取引を停止され、多額の滞納をしていたので、賃貸料を取り立てることは到底見込がなく、漁網については訴外橋本タメに所有権が移転されていたし、しかも被控訴人はその存在を知らなかつた。以上の次第で、本件交付要求当時訴外会社には本件保険料債権の全額を徴収するに足りる財産がなく、また訴外中川および同面野において連帯保証をしていることは、国税徴収法八三条にいう滞納者の財産に含まれないものというべきであるから、被控訴人の本件交付要求には控訴人主張のごとき違法な点はない。仮りに本件交付要求につき国税徴収法四八条、四九条、八三条に違反する点があつたとしても、右各規定は訓示規定というべきであつて、本件交付要求の効力になんらの影響も及ぼさない。

(ハ)  本件交付要求により控訴人が自己の債権の弁済を受けられなくなること並びに控訴人が被控訴人に対し国税徴収法八五条にもとづき交付要求の解除を請求し、被控訴人がこれを棄却したことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

控訴人が交付要求の解除を請求した際、訴外会社には本件保険料債権全額を徴収するに足りる。換価が容易で第三者の権利の目的となつていない財産はなかつたから、控訴人の解除請求は理由がない。仮りに理由があるとしても、被控訴人の交付要求並びに解除請求に対する棄却処分はいずれも行政処分であるから、被控訴人において交付要求を解除するか又は棄却処分を取り消さない限り、交付要求の効力を否定することはできないから、これにもとづく配当は正当である。

三、同第三項については、被控訴人の本件交付要求には何等違法な点はないから、控訴人の損害賠償の請求は失当である。

第四証拠〈省略〉

理由

一、控訴人がその主張のごとく、訴外会社所有の別紙目録(一)ないし(三)の漁網に対し強制執行をなし、これに対し被控訴人(地方自治法附則八条、同法施行規程六九条にもとづく国の機関としての島根県厚生部保険課長)より本件交付要求がなされ、松江地方裁判所において配当手続が開始され、同裁判所が被控訴人に対し、金一、一〇二、七九八円を配当し、控訴人に対しては配当しない旨の配当表を作成したことは当事者間に争いがない。

二、ところで、本件交付要求は、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律二一条にもとづく差押および国税徴収法八二条にもとづく交付要求から成立つているものであるところ、右差押が行政処分に該当することは勿論、交付要求も広義の滞納処分に属し、その性質は行政処分に該当するものであるから、これに不服があるものは国税徴収法又は国税通則法の定めるところに従い、その解除又は取消を求めるべきものであつて、差押又は交付要求につき重大かつ明白な瑕疵が存しない限り、強制執行を実施する機関(裁判所)としては、右差押および交付要求を当然無効として取扱うことはできず、これを有効なものとして配当手続を行なうほかないものというべきである。

そこで、控訴人の主張にもとづき、本件交付要求にこれを当然無効ならしめる瑕疵が存するか否かについて検討する。

(イ)  国税徴収法八二条三項、五五条又は民訴法五九一条にもとづく通知の欠缺について。

被控訴人が本件交付要求に当つて、控訴人に対し国税徴収法八二条三項、五五条にもとづく通知をしていないことは当事者間に争いがない。しかし、同法五〇条一項によれば、同法にいう先取特権とは同法一九条一項各号、二〇条一項各号に掲げられている先取特権に限られるものであり、また「その他の第三者の権利」のうちには、これらの先取特権以外の先取特権は除かれていることが明らかであるから、同法八二条三項、五五条にもとづき通知を要する第三者のうちには、控訴人主張のごとき動産売買の先取特権(民法三一一条六号)は含まれないものと解するのが相当である。従つて被控訴人が本件交付要求につき控訴人に通知をしなかつたのは何等違法ではない。また、民訴法五九一条の通知は執行官(当時の執行吏)がなすべきもので、右通知の欠缺が被控訴人の本件交付要求を無効ならしめる理由となし得ないのみならず、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律二一条にもとづく差押および国税徴収法八二条にもとづく交付要求に関してに民訴法五九一条の準用はないものと解すべきであるから、控訴人のこの点に関する主張も失当である。

(ロ)  国税徴収法四八条、四九条、五三条(注八三、条の誤り)違反について、

被控訴人が昭和三二年八月二九日訴外会社所有の境港市栄町九三番地の一所在宅地および事務所を、同三八年四月八日同会社所有の漁船第一三おき丸および第一五おき丸を、同三九年六月八日隠岐島漁業協同組合の事務所および倉庫に置いてあつた同会社所有の船具および漁具を、同年七月一日同会社所有の島根県八束郡美保関町森山フサケ谷の倉庫をそれぞれ差し押え、かつ昭和三八年八月一六日訴外中川秀政、同面野正男をして国税通則法四六条五項の担保として、同法五〇条六号により、訴外会社に対する昭和三七年一〇月分から同三八年六月分迄の船員保険料および昭和三六年八月分から同三八年六月分迄の健康保険料、厚生年金保険料の各債権につき連帯保証をなさしめたことは、いずれも当事者間に争いがなく、原審における控訴人代表者尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一七号証の二、成立に争いのない同第一八号証によれば、訴外会社は本件交付要求のなされた当時、漁船第五、第六開発丸、伝馬船しらしま丸、漁業権等の財産(以下その他の財産という)を有し、右第六開発丸を訴外片江巾着網漁業生産組合へ賃貸していたことが認められる。

しかし、成立に争いのない甲第三号証、第九号証の二、乙第一、第二、第九、第一一、第一二号証、原審における控訴人代表者尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一七号証の一および二、原審証人村田行彦の証言により真正に成立したと認められる乙第三号証、同証人の証言、原審鑑定の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、前記境港市栄町所在の宅地および事務所には、訴外山陰合同銀行のため本件交付要求にかかる保険料債権に優先する抵当権(債権額二、〇七〇万円)その他の抵当権が、前記第一三おき丸には訴外農林漁業金融公庫と同山陰合同銀行のため、それぞれ本件交付要求にかかる保険料債権に優先する各抵当権(前者につき債権額一、一〇〇万円、後者につき、債権額二、〇七〇万円)その他の抵当権が、前記第一五おき丸についても訴外山陰合同銀行のため本件交以要求にかかる保険料債権に優先する抵当権(債権額一、六七〇万円)が設定されていたこと、前記船具および漁具は右第一三おき丸の常用に供されていた従物で(属具目録の作成されていないことは従物であることの認定の妨げとなるものではない)、たまたま修理のため陸揚げされていたが、前記抵当権の効力が及ぶものであると解されること、前記八束郡美保関町所在の倉庫には訴外まるか船用品株式会社のため仮差押がなされており、右倉庫の価額は多くとも四二万円を越えないと推定されること、訴外会社所有のその他の財産についても、漁船第五、第六開発丸には、本件交付要求にかかる保険料債権に優先する抵当権(第六開発丸)および譲渡担保契約(第五開発丸)が設定されており、かつ右第五開発丸を除いて、昭和三九年六月三日以降同四〇年七月一〇日迄の間に順次処分され、債務の弁済に充てられていたこと、訴外会社は昭和三九年六月八六〇〇余万円の債務の支払いができず、営業を廃止して倒産したこと、当時本件交付要求にかかる保険料債権に優先する固定資産税、町民税(既に消滅時効にかかつていると推定される昭和三四年度以前の分を除き一二万円余)の滞納があること、以上の事実を認めることができ、なおその他の財産について当時被控訴人がその存在を知り又は過失によつて知らなかつたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

次に、訴外中川秀政、同面野正男の連帯保証について検討するに、右保証は本件交付要求にかかる保険料債権の一部に過ぎない(すなわち昭和三八年一一月分および一二月分の健康保険料、厚生年金保険料並びに昭和三九年三月分ないし五月分の船員保険料が含まれていない)のみならず、右保証が国税徴収法八三条に定められている滞納者の財産に含まれると解することは文理上も困難であり、しかも国税通則法五二条四項、五項において、保証人に対する滞納処分は担保提供者に対する滞納処分(差押又は交付要求)を執行しても不足があると認められる場合に執行し得るものであり、かつ担保提供者の財産を換価に付した後でなければ保証人の財産を換価に付することができない旨規定し、保証人の責任の補充的性質を明らかにしていることに鑑みれば国税通則法五〇条六号の保証は国税徴収法八三条の滞納者の財産には含まれないものと解するのが相当であつて、担保提供者の財産によつて国税等の徴収をなし得るにも拘わらず、債権者保護のため保証人に対する滞納処分を先になすべきものと解する根拠はないといわなければならない。もつとも成立に争いのない甲第二〇号証の四ないし六によれば、国税庁では国税徴収法二二条にいう納税者の財産のうちに国税等の担保としての保証を含めるものとするとの解釈をとつていることが認められるが、同条と同法八三条とは立法の目的を同じくするものではないから、同法二二条に関する右解釈が正当であるとしても、同法八三条にいう滞納者の財産に関しては前記のとおり解すべきものと考える。

そうだとすれば、被控訴人が前記差押にかかる不動産、漁船並びに船具、漁具によつては、本件交付要求にかかる保視料債権の全額を徴収することができず、また訴外会社には他に換価が容易で第三者の権利の目的となつておらず、かつ被控訴人の保険料債権全額を徴収することができる財産はないと判断したことは相当というべきであり、従つて本件交付要求に控訴人主張のごとき違法な点はこれを認めることができない。

なお控訴人は、被控訴人がその後前記差押および保証を解除したことをもつて国税徴収法七九条等に違反する処分であると主張するが、右のとおり本件交付要求が適法有効とされる以上、これによつて被控訴人の保険料債権は徴収可能となるから、被控訴人が差押および保証を解除したのも当然であり、これをもつて違法な処分ということはできない。

(ロ)  控訴人が昭和三九年八月七日被控訴人に対して国税徴収法八五条にもとづき本件交付要求の解除を請求したところ、被控訴人が同月二五日右請求を棄却したこと並びに控訴人昭和四〇年二月六日および同年九月四日重ねて本件交付要求の解除を請求したが、これまた同月一八日棄却されたことは当事者間に争いがない。ところで控訴人が本件交付要求の解除し請求する理由は、結局前記(ロ)において本件交付要求の違法を主張した事由と同一に帰するものであるが、本件交付要求につき国税徴収法八三条該当事由を認められないことは前記説示のとおりであるから、被控訴人が控訴人の右解除請求を棄却したことは相当というべきであり、しかも被控訴人が右請求を容れて交付要求を解除しない以上、単に交付要求の解除を請求したことをもつて直ちに交付要求の効力が消滅すべきいわれがないことは多言をまつまでもないところである。

以上の次第で、本件交付要求には控訴人主張のごとき違法な点は認めることができないから、右交付要求にもとづいて松江地方裁判所が作成した配当表は正当というべきであり、右交付要求を当然無効としてその更正を求める控訴人の主たる請求は理由がなく、棄却を免れない。

交付要求しなかつた債権額表〈省略〉

三、次に控訴人は予備的請求として国家賠償法にもとづき損害賠償を求めるものであるが、本件交付要求が違法であることの理由として主張するところとは、主たる請求において本件交付要求が無効であることの理由として主張するところと同一であり、本件交付要求に違法事由を認めることはできないことは前記二の(イ)ないし(ハ)において説示するとおりである。従つて控訴人の予備的請求も理由がなく、棄却を免れない。

四、以上の次第で控訴人の主たる請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却し、当審における控訴人の予備的請求も理由がないからこれを棄却し、当審における訴訟費用につき民訴法八五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 西俣信比古 後藤文彦 右田尭雄)

(別紙)目録

(一)六羽鰛網(クレモナ)浮子沈子付   一統

シート               二枚

(二)浮子ロープ付          一二〇個

ワイヤー六分         約一五〇本

右同  七分         約一五〇本

(三)漁網キョクリン         七〇〇間

右同クレモナ        一、五〇〇間

右同クレモナ九本入一〇節 一〇、一二〇間

右同クレモナ荒目      一、七六〇間

ゴムホース二吋         約一五米

ロープクレモナ三六号新品   約一一五米

浮子ロープ付           七一個

錦地曳網ロープ浮子オモリ付   約五〇反

錨中                一個

鉄タンク大             四個

同   小             二個

更正決定

控訴人 鳥取漁網株式会社

被控訴人 国

右当事者間の昭和四三年(ネ)第一〇三号配当異議控訴事件について、昭和四七年二月二五日当裁判所が言渡した判決中、明白な誤謬があつたので、つぎのとおり決定する。

主文

一四枚裏五行目中「五三条」とあるを「八三条」と、同一八枚裏六行目中「(ロ)」とあるを「(ハ)」と更正する。

昭和四七年三月八日

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例